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「日常は小説よりも奇なり」

【自伝】ホームシック

一人暮らしを始めて、早2年である。

 

もう以前のように普段生活を送るうえで困ることは特にない。

 

「休日は家にいたい。」というセリフからも読み取れるように、

自分の中でこの部屋は自分のテリトリーとしてのアイデンティティを確立したようだ。

 

敵の侵入可能性のない安全地帯であるが、

しかしなぜか最近心からの安心が得られない。

 

私はこのテリトリーのほかに、もう一つ、

昔からその地位を確立して暫く独裁勢力であったテリトリーが存在する。

 

実家である。今のこの借家よりもっと潜在的な信頼感、安心感がそこにはある。

 

どうやら私は、これを体感したがっているみたいだ。

 

 

 

実家の嗅ぎ慣れた匂い、見慣れた造り、そして住んでいる家族。

 

その因子から構成される実家イメージに浸りたい頃合いである。

 

 

 

以前に帰郷したのは3月であるから、もう3ヶ月が経とうとしている。

 

同じく一人で生活をしている同志たちから見たら、

「たった3ヶ月かよ」

と思うかもしれない。

 

仕事で言えば3ヶ月は仕事に慣れてくるが、まだまだ新人である。

恋愛で言えばそろそろ第一次倦怠期であろうか、ここが正念場である。

しかしいずれもまだ、たかが、3ヶ月だ。

 

だが、これが困ったことに3ヶ月でこちらは半ば限界なのである。

 

7月の終わりまでテストがあり、8月の初めから夏休み、9月の中旬少し前に再開する。

 

今日は6月28日であるので、残りあと1か月の辛抱である。

 

 

 

無理である。無理をさせるでない。

 

下宿を始めたことに後悔はない。学ぶことは多く、凄く刺激的だ。

 

また私の下宿先は東京であるからして、田舎者には刺激が強すぎたと言ってもいい。

 

当初は渋谷、新宿、原宿に想いを寄せては観光の機会をうかがっていたが、

 

今はそんな気にすらならない。

 

 

 

これはもちろん某疫病の感染への懸念もあるが、

なによりも人が多すぎる。

 

満員電車を見ると毎度思うのだが、

この雑多一人ひとりに感情があり、自分と同じ生物だと思うと、

申し訳ないが、気持ち悪い。

 

人間がこれほど多いとは思わなかった。

 

更に残念なことに、その人間の8割が無関心、無表情。

 

あれを無我の境地というのだろうか。

 

つまらなそうな顔をしている。

 

それを見ているとまるで、地獄の底から這いあがってきた屍が私を都会という大混沌のなかに引きずり込もうとしているように錯覚する。

いいや、これも失礼だが。

 

しかしそう実感してしまったのだ。

 

田舎のあの日常から見れば、この土地は人間臭い。私には合わない。

 

 

 

いずれにせよ、私はあと1か月、耐えねばならない。

 

自己暗示ほど立派ではないが、

エデンに昇るための下積み期間として耐え抜こう。

 

そう、私にはエデンが待っているではないか。

 

幸運なことに、アダムとイヴは、ご健在だ。