【小説】娯楽放浪者的帰属(2)
日をまたぎ、午前二時。
明日は履修登録の都合上授業のない、いわゆる全休であって、
私が天国と愛称をつけ可愛がっている曜日である。
前回の天国から一週間、結局私は怠惰であった。
平日は授業を無難にこなし、残るはゲームにあてる。
休日は遅くまで夢うつつを彷徨い、残るはゲームにあてる。
ふと、娯楽を娯楽程度にうまく制御できていた少年の頃を思い出した。
当時は決して怠惰な学歴不振児ではなく、国語も、算数も、九割がたは理解できていたし、点数も相応だった。
ゲームは一時間と禁止されていたが、それでもその中でどう効率的に進められようか、
授業中のノートに向かい作戦会議を申し立てる日々であった。
少し度が過ぎる前兆はあれど、それは完全に娯楽としての付き合いであったし、
制御が効かず従属する未来など見えていなかった。
ここまで来て、私には一人の幼馴染が見えていた。
保育園からの付き合いで、名は新谷美咲。
新谷とは目が合った際の少量の興奮はあれど、
ずっと友人としての付き合いであったし、
まさか家族間で縁談が固まるだなんて思っていなかった。
お互いまだ大学生であるから、
卒業後に籍を入れると両親。
焦りすぎだ。結婚ができないと徴兵にでも駆り出されるとお思いか。
縁談はともかく、ゲームにはもうすでに尻に敷かれてしまった。
新谷にも、と考えかけて自制。
彼女は気が強いから、と想像しかけて自省。
そういえば、嫁(仮)の二つ上の兄は現在はエリートビジネスマンとして働いているらしいが、
どうやら数年前は新卒の勤め先に精神を蝕まれた挙句ゲームにその生涯を捧げようとしていたそうではないか。
今は全くゲームはしていないという。
そんなに人間変わるだろうか。
時間は午前三時を回ったが、一度気になるとどうしようもない。
「お久しぶりです。美琴お義兄さん。少し相談があるのですが。」
全く女の子のような名前の彼は、生粋の高身長濃い顔だ。
「これで背が低く、犬のようにかわいがられるような男であれば女性関係で在庫不足を起こす必要はないであろうに。」
少しの同情を覚えた。危うく送信しそうになり慌てて削除する。
もはや無意識だが、私は自身の顔に一定の自信があり、それからの発言だ。
このメッセージ通知で目が覚めてしまわないよう、願いながら送る。
少しの期待に乗じて十分ほど返信を待ってみるが、やはり来ない。
実際明日、いいや日付が変わり今日、私は全休であるが世間一般は単なる平日である。
漠然とした不安と焦燥が依然枕に染み付いたベッドの上で、
メッセージの送信をゲーム依存からの脱却の第一歩だと認識した脳内報酬系がドーパミンを供給。
小さな満足感にすっかり酩酊した私は、このまま明日を迎えた。
やがて鳴る携帯の通知音には気が付かなかった。
「娯楽放浪者的帰属(3)」へ続く・・・